2018/08/08 04:58

9 ジェレミー・スチール司祭


 ジェレミー・スチール司祭は、わたしがドン・キホーテに抱くイメージそのものだった。長身痩軀の老人で、やつれた顔と、妄想にとりつかれたような目をしている。けれども彼には、スペインの伝説的な騎士の誇り高さなどみじんも感じられなかった。丸くまるめた背中は、得体のしれない脅威の重みに耐えかねているかのようだ。
 司祭が入院しているチェルシー病院に着いたのはもう遅かったけれど、その晩のうちに面会できることになった。ファイルに記されていたように、ジェレミー・スチール司祭は精神に変調をきたしていたが、悲劇的な夜の出来事についてははっきりと覚えているようだった。
「その地図は、たしかにもう手もとにないんですね?」オーウェンは病人のわきに置いた椅子に腰かけるなり、そうたずねた。
 スチールは悲しげにうなずいた。
「ええ、手紙といっしょになくしてしまいました。あるいは、誰かに取りあげられたか。おそらく、恐ろしい責め苦を受けていたときに」
「要するに、なにが書かれていたんです? 通りの地図ですか、それとも行き方の指示?」
「行き方の指示です。これこれの路地を、これこれの距離だけ進めとか、ポーチの下を抜けて右や左に曲がれとか、そんなところです」
「だから今でも、それがどこだったのかわからないんですね?」
 老人の目は、異様なほど一点を見つめていた。
「ええ、無理でしょう……それにもうあそこには、戻りたくありません。もう二度と。あそこは人を破滅させる場所です。現代のバビロン、ロンドンの真ん中にある堕落腐敗の地なんです……リボルバーの引き金を引く音は、決して忘れられないでしょう。それにあの恐ろしい騒音も……自分の頭が吹き飛んだかと思ったくらいです」
 司祭の証言には、ラルフやベイカーの話といくつもの共通点があった。始まりは彼に助けを求める信者からの手紙だった。明日の夜十時に、クラーケン・ストリートの家に来て欲しいというのだ。かつて教区の信者だったという男に覚えはなかった。不可解な話だと思いつつ、司祭は待ち合わせの場所におもむくことにした。苦しみを告白する手紙には、道順の指示も添えられていた。司祭はその指示にしたがって、クラーケン・ストリートにたどりついたのだった。シルクハットをかぶった奇妙な男――わたしとオーウェンは《いかれ頭》と呼ぶことにした――が、例によってつじつまの合わない言葉で司祭を出迎えた。《ああ、そうとも。この道で間違いない。でも、言わせてもらうなら、やっぱり道は間違いだ。クラーケン・ストリートにやって来る者なんて、めったにいない。だって地獄の暑さだからね》
「でも」と司祭はつけ加えた。「その夜はとても涼しかったんです。深い霧も出ていて。ともかくわたしの目の前には、路地がぽっかりと口をあけていました。右側にはにぎやかな居酒屋があって、左側には掲示板が……」
「なにが張ってあったか覚えていますか?」
「ええと……そう、サーカスのポスターでした」
「どんなサーカスの?」
「ああ、そこまではわかりません。居酒屋の名前にも、気をとめませんでした。警察でもいく度となく聞かれましたがね。路地の半ばまで来ると、盲人がブドウを売りつけようとしました。それから下卑た女が、忌わしい誘いをかけてきて……」
「赤いケープの女ですね?」
「おそらく。女のほうはちらりとも見ませんでしたから。わたしは指示どおり、むかいのドアから家に入り、三階までのぼっていきました。それから左側の廊下を進み、薄暗い部屋を二つ、三つ抜けると、待ち合わせの場所に着きました……」
「誰もいない、薄暗い部屋ですよね」
 ジェレミー・スチールの額には、玉の汗が浮かんでいる。
「ええ、そのときですよ、悪夢が始まったのは。窓のむこうでなにか光りました……身をのり出してみると、深い淵かトンネルをのぞきこんでいるようで……頭がくらくらしてきました。やがて目の前に、明るい窓か大きな開口部が浮かびあがりました。近くて遠いような、おかしな感じです。ともかく、机の前にすわっている男がはっきりと見えました。歳は四十くらい。なかなか上品そうですが、どことなく疲れて悲しげでした。部屋は豪華で、ギリシャ風の円柱を描いた青い壁紙が張ってありました。男は引き出しからトランプを取って、ぼんやりとめくっていましたが、やがてうんざりしたようにわきに投げ捨ててしまいました。それから今度はリボルバーを取り出し、微笑みながら見つめていました。背筋がぞっとするような、このあとに続く悲劇的な場面を予感させるような微笑です。
 男は箱から銃弾をひとつ取り出し弾倉にこめると、ロシアンルーレットをするみたいにシリンダーをぐるりとまわしました。何度も何度も、繰り返しまわしています。シリンダーが止まるたびに銃口をこめかみにあて、男は顔を歪めて引き金を引きました。十回ほどもそうしたでしょうか、指の動きにカチッという音が答えます。それから恐ろしい爆音が、静寂を切り裂きました。銃口から煙があがり、哀れな男は前に倒れこんで机に顔を伏せました。正確には、ローマの雌狼を模ったブロンズ製の文鎮のうえに。見るも恐ろしい光景でした……とそのとき、いきなり頭に激しい衝撃があり、わたしは意識を失いました。気がついたときは、椅子に縛りつけられていました。あたりは真っ暗でしたが、わたしはもう部屋にひとりではありませんでした……」
 ジェレミー・スチールはごくりとつばを飲みこむと、膝のうえにかかっていたシーツを引っぱりあげた。体験談をしているうちに、恐怖がありありとよみがえってきたらしい。
「寒くてひどい頭痛がしましたが、背後にいる男のぞっとするような気配に比べたら、ものの数ではありません。男はひと言も言葉を発しませんでした。ただ銃口をわたしのこめかみに押しつけ、あざ笑っているだけです。金属の冷たい感触で、身がすくむような思いでした。なんとか目を閉じようとするのですが、さっき見た場面を脳裏からふり払うことができません。今度はわたしが犠牲者として、あの場面を体験しているのです。というのも背後の男は、わたしに対してロシアンルーレットを始めたからです。男は笑いながら、殺してやると耳もとで囁きました。そのあいまにシリンダーが回転する音と、撃鉄が空撃ちするカチッという音が響きます。
 そのたびに安堵の汗が、どっと吹き出しました。けれどもそれはつかの間の猶予にすぎないとわかっていました。男はこの手順を繰り返しました。いったい何度になったことか……いましめをほどこうとしましたが、うまくいきませんでした。突然、頭が吹き飛ばされたような気がしました。爆発の激しい衝撃がこめかみに伝わりました。もうこれでお終いだ。そう思ったとたん、わたしは気を失いました……再び気づいたとき、男はもういませんでした。あたりはあいかわらず真っ暗です。わたしはまだ生きているのだとわかるまでに、しばらく時間かかかりました。なんとか階段に戻って一階までおり、悪魔じみたその家を出ました。
 ブドウ売りはまだそこにいました。女のほうも、なにごともなかったかのように笑っています。女は口をひらきかけましたが、わたしは話す暇を与えず、大急ぎで路地を引き返しました。心臓は今にも飛び出しそうでした。こんな忌まわしい場所からは一刻も早く離れたい。その一心でした。わたしの乾いた足音が、舗道に響いています。けれども自分では、泥か溶岩のうえでも歩いているような、妙にぐにゃぐにゃとした感触でした。足もとがふらつき、あたりのものがまわり始めました。大通りに出たときは、心底ほっとしました。けれども、悪夢はまだ終わっていませんでした。あとひとつ、とてつもない驚きがわたしを待ちかまえていたのです。ほんの数歩、歩いたところで男があらわれ、火を灯した松明でわたしを脅しました……」
「路地に着いたときに見かけた男ですね?」
 司祭は両手で頭を抱え、もごもごと答えた。
「ええ、そうかもしれません。でも、はっきりとは見えませんでした。男がわたしの鼻先に、炎をふりかざしていたもので。けれども男のわめき声は、はっきりと聞こえました。『下がれ、この不信心もの。悪魔の手先め。もと来たところへ戻るんだ。さもないと堕天使 の雷がきさまの頭を打ち砕くぞ』そう言って威嚇する男の勢いがあんまり激しかったので、従うしかありませんでした。わたしは走って引き返しました……ところが、出てきたばかりの路地の口は見つからなかったのです」
「松明の男に出会うまで、大通りをどのくらい進みましたか?」オーウェンは眉をひそめながらたずねた。
「せいぜい三十メートルほどでしょう」
「でもそんなこと、信じられません」この話にはいいかげん慣れ始めていたとはいえ、わたしは驚きのあまり思わず叫んだ。「路地がそんなふうに消えるわけない。代わりになにかありましたか?」
 司祭はぼんやりとわたしを見つめた。自分が思い出している悲劇的な場面の反映だとでもいうように。
「なにもありません」と司祭は答えた。「ほかの家や、ほかの路地が続いているだけで。松明の男も、もう追いかけてきません。小さな水飲み場近くのポーチの下に、姿を消すのが見えました」
「水飲み場ですって?」オーウェンは驚いたように言った。
「ええ、ごくありふれた水飲み場です」
「ポーチとどんな位置関係にありましたか?」
「よく覚えていませんが、いずれにせよそんなに離れてはいませんでした」
「その場所について、ほかに覚えていることは?」
 司祭は申しわけなさそうに首を横にふった。
「いえ、本当に……忌まわしい濃霧のせいで、大したものは見えませんでしたし。ともかくああした庶民的な地区なら、どこにもあるような通りです。地味で、あまり広くもなく。そのあと、ずいぶん歩きました。できるだけ早く、遠ざかりたかったので。途中、何人か、通行人と出会いました。わたしは自分の身に起きたことを話し、助けて欲しいとたのみましたが、頭がおかしいと思われただけでした……わたしは警察署に駆けこみ、被害届を出しました。扱いは丁重だったものの、本気で信じてはもらえなかったようです。不思議なことに、ここ最近、警察の態度が変わりました。再びわたしのところにやって来て、注意深くメモを取りながら話を聞くんです」
 オーウェンは老人の腕に手をあてた。
「あなたの証言はとても貴重ですよ、司祭さん。あなたにとってはつらい試練でしたが、決して無駄にはならないでしょう」
 ジェレミー・スチールは虚空の一点を見つめながら、うなずいた。
「ええ、きっと役立つと思います。地獄の試練がすべて、そうであるように。神様は試練を与えるために、わたしたちをお作りになったのですから。無意味なことなどなにもないのです。あらゆるものに、しかるべき場所がある。あれからずっと夜どおし鳴り続ける、あの悩ましいカチカチという音にも。カチカチという時計の音か、あるいはリボルバーを空撃ちしたときのカシャッという音かもしれません……眠りを取り戻すことは、もうかなわないでしょう。眠りこむかと思うたび、すさまじい爆音によって打ち倒されるような気がするのですから……」

             ***
             
 夜の十時ごろ、わたしたちがストーンホール・ホテルでラルフ・ティアニーと落ち合ったとき、ロビーにはもうほとんど客はいなかった。それは壁一面が羽目板張りになった贅沢なロビーで、革張りの快適な肘掛け椅子が備わっている。わたしとオーウェンは奥の席につき、ウェイターが注いだ極上のウイスキーをちびちびと味わっていた。ティアニーはシェリー酒のグラスをかたむけながら、わが友の調査報告に注意深く耳を傾けている。アルパカのしゃれた三つ揃いを着こなしたラルフには、もはや追いつめられた獣を思わせるところなどなかった。しかしオーウェンが話し終えると、落ち着きはらった表情に不安の色がさした。
「信じられないな」彼はグラスをいっきに空けると、そう言った。「ぼくのほうはたった数時間で、あの事件のことはすっかり忘れたよ」
「それで大使館のほうは?」とわたしはたずねた。
 ラルフは笑ってうなずいた。
「大丈夫、誰もぼくをラドクリフと間違えたりしなかったから。昨晩、警官に追いかけられたわけもわかった。今日の午後、巡査がひとりやって来てね。ラドクリフは逃亡中に盗んだマリンブルーのロングコートを着ていたっていうんだ。ぼくと同じように。だからそのコートはもう着ないようにって、忠告してくれたよ。ラドクリフが人に危害を加える恐れは、もうなくなったとはいえね。やれやれ、なんて事件だ。それにしても、今きみから聞いた話はまったく驚きだな。どの証言も、ぼくの体験とそっくりだ。昨夜はやっぱり、夢を見ていたわけではないらしい……でも、きみの話を聞いていて、ひとつ思い出したことがあるんだ、バーンズ。路地の入口にあったポスターの件さ。あれは司祭が言ったとおり、たしかにサーカスのポスターだった。ちらりと見たのも覚えている。背景には猛獣が描かれ、中央には大きな道化師の姿があって、みんなが拍手喝采を送っている。黄色い文字で名前も書かれていたが……それがアキレスっていうんだ」
「アキレスだって」わたしはびっくりして聞き返した。
「きみは天職を間違えたな」とオーウェンが冷やかす。
「なんとでも言ってくれ」
「いや、道化師になるには真面目すぎるか」オーウェンはそう言うと、今度はラルフをふり返った。「でも名前がアキレスなら、姓のほうは覚えてないのか?」
「アキレス・マノーラとか、ロマーナとか、そんな感じだったかな」
「アキレス・ロマーナ?」
「ああ、たしかそうだった……アキレス・ロマーナ、道化師の王!」
「なんだか聞き覚えがあるぞ。それなら簡単に調べがつくだろう。ほかに気づいたことは?」
「そうそう、水飲み場のことも……」
「ほらみろ」とオーウェンはうれしそうに叫んだ。「ぼくの言ったとおりじゃないか。人間の記憶力は、常に過小評価されているんだ。記憶の女神ムネモシュネに感謝しなければ。ほんのささいなことでも、記憶を喚起してくれることにね。そうやっていつも意外な時に、記憶はよみがえるものなんだ。さあ、きみはその水飲み場のことを思い出したんだな」
「ああ、塀のくぼみにしつらえた小さな水飲み場だが、台座は前に張り出していたはずだ。あやうくつまずきかけたからね」
「大通り沿いにあったのか?」
「そう、路地の入口にむかって右側に」
「クラーケン・ストリートからどれくらい離れていた?」
「二、三十か四十メートルか、はっきりとは言えないが……ともかく水飲み場からあまり歩かないうち、むかって左側に路地の入り口が見えたんだ。サーカスのポスターと居酒屋のあいだにね」
「ほかの証言とも一致するな。ベイカーも同じように言っていたよ。そこで水を飲むよう、《いかれ頭》に命じられたって。正確を期して、現場の地図を作ってみよう(図1参照)」



  オーウェンはウェイターを呼んでお代わりを注文し、ついでに紙と鉛筆を持ってくるようにたのんだ。説明がわかりやすいよう、彼が描いた地図をここに掲げておこう。オーウェンは描き終えると、こう言った。
「よし、完璧だ。現場とおぼしき地域について、これでもっと入念な調査ができるぞ。クラーケン・ストリートがどこにあるのかは、なかなか難しい問題だからな。だが残念ながらそれだけで、すべての謎が解決できるわけではない。この事件には、もうひとつ別の側面がある。ぼくにはこちらのほうがもっと奇妙で、急を要する問題なように思えるんだ。証人たちが見た、異様な光景についてさ」
 ラルフはうなずいた。
「それにしても、いったいあれはなんの場面だったのか」
「場面は全部で三つ」とオーウェンは指折り数えて言った。「あれこれ考え合わせると、どれも過去の出来事をあらわしているらしい。司祭が語った奇妙な拳銃自殺の場面は、いつ、誰の身に起きたことなのかはまだわかっていないが、遠からず判明するだろう。それはウェデキンド警部も納得ずみだ。ベイカーの見た場面は十年ほど前に、現実にあったことだと、しかも警視庁のお偉方しか知らないことだと判明したからな」
「びっくりだよ」とラルフはため息まじりに言った。「してみると、昔から伝わる噂は本当だったと言わざるをえないな。クラーケン・ストリートには不思議な力がある。不用心な通行人を罠にはめて過去へと導き、人生の奇妙な一場面に立ちあわせるという噂は」
「きみだって、身を持って経験したじゃないか」
「今となっては、信じられない気もするよ」
「きみの場合はさらに興味深いぞ、ラルフ」とオーウェンは続けた。「だって女にナイフで刺されたという幻影の男と、きみはその数時間前の真っ昼間に出会っていたのだから。そこでたずねるが、間違いなく同じ男だったんだな?」
「ああ、間違いない。昼間に会った男はもっと年上に見えたけれど。わかってるさ、そんなこと馬鹿げているって」
 するとオーウェンは、教え諭すように人さし指をあげた。
「いや、馬鹿げてなんかいないさ。きみは昔の出来事を目撃したんだ。だから同じ男が、今では歳をとっていても不思議はない。路地が最近出現したときのことを検討してみよう。全部で五回あったが、最初の三回、つまりヨーク、ブラウン、ベイカーのケースでは、哀れな主人公の行方はわからない。スチール司祭は運よく地獄の罠からかろうじて逃げ出すことができたが……」
「司祭はあの事件のせいで、深刻なショックを受けている」とわたしは口を挟んだ。「だからこそ、彼の言葉に噓偽りはないと思うんだ。いや、まったく、彼が体験したロシアンルーレットの話なんか、実に恐ろしいじゃないか……」
「まさしく、あんな目に遭ったせいで、司祭は精神に変調をきたしてしまったんだ。彼の立場になってみろよ、たったひとり、暗闇のなかで、リボルバーの冷たい銃口をこめかみに押しあてられ……耳もとで死ね、死ねと囁かれ続けるんだ。そして運命の瞬間を待っている。引き金を引く音が静寂のなかで何度も響き、そしてついに爆音が耳をつんざく。誰だって震えあがるじゃないか。そうだろ。たとえきみほどの豪傑だろうとね、アキレス」
 わたしは肩をすくめた。
「たしかに。でも、それにはどんな意味があるんだろう?」
「恐るべきからくりの歯車に入りこんだ砂粒ってところだな。けれども、ラルフ、もうひとつはっきり言えることがある。初めの四つときみの場合とでは、注目すべき相違があるんだ」
「どんな違いが? なんの危害も加えられず、無事に戻って来られたのは、ぼくひとりだってことか?」
「いや、罠にかかったのが偶然だったのは、きみだけだってことさ。行方不明の骨董屋についてはよくわからないが、それを除けば犠牲者たちはみな、さまざまな口実でクラーケン・ストリートにおびき出されている。道順を説明する地図や指示まで送ってね。ところがきみがあの路地に迷いこんだのは、特異な状況からだった」
「ぼくがジャック・ラドクリフに似ていたという?」
「そのとおり。きみはあの呪われた裏通りに、たまたま足を踏み入れてしまったんだ。だからこそ、きみはもっとも重要な証人なんだ。それにきみが昨日の午後、ホテルを出たところで出会った男にも、ぜひ話を聞かなくては。そうすれば、きっと詳しいことがわかるだろう。少なくとも、彼がかつて負った傷害について」
「でも、その男のことはなにも知らないのに」
「いや、男の顔はわかっているだろ。いっしょにいた美しい女の顔もね。詳しく話してくれたじゃないか。明朝九時に、またここで待ち合せよう。ゼロから手がかりを追うんだ。なんとしてでも、その男を見つけなくては。八方手を尽くして」


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